No.65 おやつはパワフルだからこそ。
ふと思い出したのは、イギリスはDogs trustにて保護犬をトレーニングするワークショップに参加した時のこと。
4日目の最終日にGood citizen test合格が目標の一つだったのですが、最初の2日間は食べ物を使うことが禁止されました。
1人と1匹だけで向き合います。
前歴は不明(あえて、教えてもらいませんでした。)
センターに来たばかりで、環境にも慣れていない。
初めて会った人に、いきなりリードを持たれる。
そんな不安を少しでも和らげようと、以前の私だったら、まずおやつをあげることから始めたかもしれません。
でも、禁止でした。
最初は全くこちらを向いてくれなかった…。けど、そりゃそうだよね。
いっしょに座って景色を眺めたり、お散歩したり、
正直なところ最初はどうしてよいかわからなかったけれど…。
そうこうしている内、苦手な犬や環境に出会って不安を感じた時、
私のところに来る(飛びつく!)という解決策を自身で見つけてくれた。
おやつを使えば、もしかしたら10分で同じことが実現できたかもしれない。
でもそれは、何をよりどころとしているのだろう?
彼女は安心感を得られただろうか?
前回のコラムでは「アンテナ」と表現しましたが、
おいしそうなにおいは、犬たちにとって強力な磁石だからこそ、一度おやつにアンテナが向いてしまうと、むしろ周りが見えづらくなってしまうこともある。
まずは、私という人間を知ってほしい、いっしょに何かをするというベースを作るためには、おやつが邪魔になってしまうこともあると実感した出来事でした。
あ、決してトレーニングにおやつを使うことを否定している訳ではないのです。
私も臨機応変に使います。(どう使っているかは後述しますね。)
問題は使い方で。
もったいな〜い!
と、最近よく口走っている気がします。
チャックの音は、期待の音。
もし、こんなことが一つでも気になったら…
・じーっと一瞬も目をそらさずにアイコンタクト(ちらりとおやつを見ることも忘れずに。笑)
・おやつを使えば、喜んで飛んでくる(けど、おやつがなかったら、すぐに踵を返す or 食べ終えたらダッシュで行ってしまう)
・手やポケット、カバンを開けるあなたの動きに敏感に反応する
誰とコミュニケーションとっているの〜?
もしかしたら、おやつとコミュニケーションしてない!?
と、冗談めかしてご指摘するけれど(笑)、
せっかく飼い主さんにアンテナが向いていたのに、おやつの存在をちらつかせることで、おやつにアンテナが向いてしまった。
こんなにもったいないことはないのです〜
私もかつては、おやつを使って教えることを主軸にトレーニングを行なっていました。
確かに、おやつを使えば早いし、何でも教えられる。
誰の言うことも喜んで聞いてくれる。
何よりやる気に満ちていて、楽しそう!
それでも、もったいな〜い!と感じるのは、
1-way communication
になってしまっている時。
I say, you do.
言ったことをやらせる。できたらほめる。
決して悪くはないけれど、それってコミュニケーションと呼んでいいのかな、とかつての私は葛藤しました。
今の私は、犬たちに「何かをやらせるため」におやつを使うことを、極力減らそうと努力を続けています。
犬たちのアンテナがこちらに向いていれば、自然と応えてくれるんだもの。
そんな犬たちのすばらしい能力の邪魔をしたくない。
(書きながら改めて思ったけど、「やらせる」「やらされる」って気持ちいい言葉じゃないね。)
じゃあ、どんな時におやつを使っているかというと、ただ「おやつ」として楽しんだり、トレーニングとしては「落ち着かせるため」に使っています。
慣れない環境や、知らない人や犬に不安を感じた時、何とか自分自身で乗り越えようとしているけれど、あと一歩背中を押してあげたい、という時に使っています。
ベンチに座って、のんびりおやつタイムを楽しむのもいいね。
飼い主さんとノーズワークするのも、気持ちの切り替えに役立つ大好きな時間!
おやつはパワフルだからこそ、適切な場面で使えば、もう一歩踏み出したいと思っている犬たちの助けになる反面、
一歩踏み出そうとまでは思えていない時に使えば、むしろおやつ=嫌な記憶として残ってしまう。
おやつを使うことに賛成vs反対、の議論はナンセンス。
犬たちがどう感じてる?
結果、どう感じるようになる?
私はそれを何のために使うの?
そんな問答を繰り返すことが、ドッグトレーナーとしての使命なのかもしれませんね。
結構こまかしい職業でしょ?笑
それでも、教育というのは自分がやりたいことを実現させることではなく、相手のために考えることだから。
やっぱり大切なスタンスは、これからも守り続けたいと思うのでした。
Thanks to dignified dogs!
おやつ大好き!何でもやる!という犬たちだけではなく、
おやつなんかに釣られない、という確固たる自分を持っている犬たちや
たとえ大好きなものがあっても、何かを「やらされる」ことに抵抗する気高い犬たちとの出会いが、私を変えてくれました。
おやつがあれば楽しいでしょ?というエゴに気づかずにいた私を、人として成長させてくれた犬たちへの感謝を込めて。
May, 2019
Happy & Natural な犬のしつけ ナチュラルドッグ
(出張トレーニング@札幌)

